最初に整理しておきたいのは、「香り」と「匂い」は別物だということです。 「羊の良い香り」と「羊特有の臭い」は、同じように語られがちですが、本質的にはまったく違います。
羊の良い香りは、牧草を食べて育ったことによる、いわば草原の香りです。 一方で、いわゆる「臭い」と言われるものの多くは、脂肪の酸化や保存状態の悪さによって生じたものです。
この2つが混同されてきたことが、「羊は臭い」というイメージを生んできた大きな要因だと考えています。
羊肉の匂いは、どこから来るのか
羊肉の香りの正体は、牧草に含まれる葉緑素が体内で分解され、「フィトール」という成分に変化することに由来します。
これは羊に限ったものではなく、草食動物全般に共通する特徴です。
牧草牛などで言われる「グラス臭」も、同じ考え方です。
穀物肥育が中心の牛肉に比べると、羊は基本的に草を主食とするため、香りが分かりやすく感じられます。
ただし、羊は主に草を食べて育つため、内臓以外の肉そのものに強い香りが出るわけではありません。
近年では、香りを重視して牧草を工夫する生産者も増えています。
保存や手入れで「香り」は「匂い」になる
問題になるのはここからです。
羊肉の香りは、肉そのものよりも脂肪に由来する部分が大きく、この脂肪は非常に酸化しやすい性質を持っています。
温度管理が不十分だったり、保存状態が悪かったりすると、脂肪が酸化し、独特のクセのある「臭い」へと変わってしまいます。
つまり、
羊肉は「臭くなる」のではなく、「臭くしてしまう」食材なのです。
羊肉は、鮮度管理と処理さえ適切であれば、決して臭いものではありません。
あるのは「香り」であり、それをどう活かすか、あるいは殺してしまうかは、人の扱い方次第です。
「昔の羊のほうが香りがあった」という話について
年配の方から
「今の羊は香りがしない。昔の羊のほうがうまかった」
と言われることがあります。
ただ、その“香り”の正体を冷静に考えると、
多くの場合は劣化した脂肪のにおいだった可能性が高いと考えられます。
思い出の中で、美化されているだけで、 実際には「安価で、管理の悪かった羊肉の匂い」を 「羊らしさ」として記憶しているケースも少なくありません。
羊肉は、とても繊細な食材です
羊肉は、5℃以下での保存が理想とされ、
真空パック後から調理直前まで、いかに温度を一定に保つかが重要です。
1℃違うだけで品質が変わると言われるほど、羊肉は繊細です。
冷蔵(チルド)で輸入されたラム肉でも、保存期限が近づくと香りが変化することがあります。
これは腐敗ではなく、脂肪の変化によるものです。
この点を理解し、扱いに気を配るだけで、羊肉の印象は大きく変わります。
「羊は臭い」は、羊の問題ではない
「羊肉は臭い」と感じた経験のある人の多くは、
保存や調理状態の悪い羊肉を食べた経験があると言えるでしょう。
これは羊そのものの問題ではなく、
流通、保存、調理に関わる人間側の問題です。
世界的に見れば、羊肉はごく一般的な食肉であり、
「臭い肉」として語られることはほとんどありません。
むしろ、日本のように羊肉との距離があった国特有の印象だとも言えます。
今は、良い羊肉を食べられる時代
冷凍・冷蔵技術の進歩、
羊肉の扱いを理解した料理人の増加により、
今は「美味しい羊肉」「良い香りの羊肉」を食べられる機会が格段に増えました。
羊肉に苦手意識のある方こそ、
ぜひ今の羊肉を味わってみてほしいと思います。
羊肉は、きちんと扱えば「臭い肉」ではありません。
香りを楽しむ、ごちそうの肉なのです。
羊の匂いについてのまとめ
・羊肉の「香り」と「匂い」は別のもの。混同されがちだが、同一ではない。
・羊の香りは、草食動物が草を分解する過程で生じる、自然な香り。
・いわゆる「臭い」と感じられるものの多くは、脂肪の酸化によるもの。
・羊肉の脂肪は酸化しやすく、保存や温度管理が味と香りを大きく左右する。
・適切に保存・処理された羊肉は、臭くならず、香りとして楽しめる。
・過去に流通していた安価で管理の悪い羊肉の印象が、現在まで残っている面がある。
・「昔の羊の方が香りがあった」という記憶の多くは、劣化した脂の匂いである場合が多い。
・羊肉の匂いの感じ方には、食文化や世代、食べ慣れの差も影響している。
・世界的に見れば、羊肉は一般的で、臭い肉として扱われることはほとんどない。
・現在は流通・保存・調理技術の進歩により、良質な羊肉を安定して食べられる時代になっている。
・羊肉は「臭い肉」ではなく、「香りを楽しむ肉」である。