「私たちはウールを愛している。羊が生きる現在の状況下では、他のどんな繊維よりもウールは環境に優しいから」
こう語るのは、イギリスの有名ファッションデザイナーであるヴィヴィアン・ウエストウッドです。
彼女はまた、ドキュメンタリー映画『スローイングダウン・ファストファッション』のなかで
「ウールは見た目に暖かく、身体を美しく見せ、育ちまで良く見せるもの」とも話しています。
“あたたかく、美しく、環境にやさしい”今回はそんな羊毛=ウールの魅力についてお話しましょう!
あたたかい羊毛
羊毛のあたたかさの秘訣は大きく2つ、高い<吸湿性>と弾力をもって空気を含む<縮み>です。
羊毛繊維の内側には水蒸気を通す細かい孔があいていて、空気中や体表の湿気が吸い込まれ、繊維の芯に伝えられます。
なんと最大で乾燥自重の35%もの水分を蓄えることができるんですよ!水蒸気が吸収されるときには熱が放出されるので“あたたかくなる”ということです。
また、中心が2種類のちがったタンパク質の二層構造になっている羊毛繊維は、くるりと一周半回転して縮んでいます。
この縮みのおかげで繊維と繊維の間に空気をたくさん含むことができ、断熱性と保温性が高められています。
▲内部の二層構造(コルテックス)と水をはじくうろこ状構造(スケール)。クリンプは繊維が一周半回転してできる縮み。
さらには雨をはじき、-60℃の環境下でも凍らない性質は、あらゆる繊維のなかでも“あたたかさ”に長けていることを示しているのです。
美しい羊毛
2013年、アメリカ・ニューヨークにウールシャツ専門店『Wool&Prince』が誕生しました。
こちらのシャツの売りは「100日間洗わずに着ても、汚れない!におわない!シワもない!」というもの。
若き創業者マック・ビショップは自ら製品のウールシャツを100日間着続けて、実際にそれを示してみせました。
彼のウールシャツは特別な加工を施したわけではありません。羊毛の特徴をうまく引き出し利用しているだけなのです。
▲NYの街の人に100日間着たシャツを触ってもらうマック。YouTubeでこの動画をご覧いただけます^^
羊毛繊維の表面には水をはじく性質があり、汚れが繊維状に沈着しにくくなっています。
匂いがつきにくいのは、羊毛が細胞の集合体で繊維の内部の表面積が広いために、洗うまで匂いの成分をなかに閉じ込めておくことができます。
シワがつきにくいのは先述した<縮み>による特質です。ひっぱっても元に戻る弾性と復元力が型崩れを抑えて、シワをつきにくくしているのです。
環境にやさしい羊毛
羊毛は毛刈りを毎年行うことで継続的に得られる資源です。
また、古着になってもウール100%であれば反毛というかたちで繊維をリサイクルすることも可能です。
反毛とは使い古したニットや織物をほどいてほぐして綿状に戻し、新毛を混ぜながらもう一度フェルトや紡糸で再利用することです。
さらには羊毛には生分解性がある、すなわち天然の動物性繊維であるために地中のバクテリアによって分解されて土に還るという性質も評価されます。
このように多くのメリットをもつ羊毛ですが、現在世界中の衣類の約60%が人工繊維から作られ、羊毛の利用はわずか1.3%に留まります。
その背景には、羊毛繊維工業の衰退や人工繊維の低価格化などさまざまなものがあります。
人類が長きにわたって愛用してきた羊毛。
羊食も盛り上がり、羊にスポットライトのあたる昨今だからこそ、この魅力をお伝えしたい次第であります!!
【プロフィール】
中村咲蓮
北里大学獣医学部獣医学科在学。奈良に育ち、青森に住まう。
獣医になるべく勉強する傍ら、大学で廃棄されていた羊毛という資源を活用することに使命を感じ《北里ひつじ工房》をたちあげる。
フェルトドールから実用小物までなんでも製作してみたいこの頃。
ファンキールックスと裏腹に手芸が趣味だと驚かれることもしばしば。
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