羊肉のはやり(ブーム)の波について

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羊肉のはやり(ブーム)の波について


羊肉を第一次ブーム、第二次ブーム、第三次ブームと分けて話す事が最近多い気がします。取材でも「第三次ブームは・・・・」等と聞かれます。本当によく。この、ブームを分ける事なのですが、もしかしたら私が思い切り以前雑誌社と企画のブレストで、編集的に話しているうちにそう固まった気もしており、(もしかしたら何かで読んだものかも)、最近著名な方も「羊の第二次ブームは……」などと記事を書き始めており、そこまで考えないで話し始めたことなので非常に責任を感じています(どこかで読んだものなら、感じ損)。

こちら、まとめておこうと思い、実は、今回で第四次という修正も込めて、まとめようかと思います。あくまでざっくりとした流れで、資料に基づいている部分もありますが肉屋さん・羊飼い・流通業の方・先生・お店の方・一般消費者など、ここ8年ぐらい多くの人の話などを元に感覚的に理解していることもあるので、学術論的なものではなく、あくまで主観的な要約として見て頂ければと思います。

また、「羊肉ブーム」と「ジンギスカンブーム」が混在しています。このあたりわけるとややこしいので「羊肉を食べさせる料理法としてのジンギスカン」と考えて、一緒にしています。

第一次ブーム「綿羊百万頭計画における、国家の主導ブーム」(昭和初期~大体終戦)


日本戦前の仮想敵国はロシアでした。ロシアと戦うには羊毛がいります。暖かい軍服がないと戦う前に戦争になりません。日本では木綿などしか自前で生産できず、オセアニアからの輸入に頼っていました。「なら問題ないじゃん」というなかれ。もし、ロシアがオセアニアと同盟を結び、日本に羊毛を輸出できないようにするだけで、日本はロシアと戦えません。第一次世界大戦時には、実際にそのような状況になりました。

そこで、国内で羊毛生産しよう!と、国と軍が動き出し、農家の利益率をあげるために、肉も売れるようにしよう!!と様々な施策が撮られたのが、このブームです。一部、文化人などが、羊肉を食べてはいましたが、それをもっと庶民化しようという運動で、内務省主導で日比谷公園で「羊フェスタ(みたいなもの)」が開かれたり、料理講習会などがひらかれたりしました。ジンギスカン料理の誕生もこのあたりです。しかし、この流れは終戦でピタッと止まりました。その後も、終戦後の物資不足などから羊は飼われ続けましたが、ブームというよりは生きるためであり、ブームとは言えませんが、広義の意味でのこの流れは昭和30年代の羊毛用肉輸入自由化まで続きます。

第二次ブーム「北海道からジンギスカン認知拡大」(昭和30年代後半から~)


羊毛や羊肉の輸入自由化は国産羊飼育農家さんには大打撃でしたが、昭和37年の羊肉の輸入自由化で安価な冷凍肉が日本に輸入されます。この時期、北海道に検疫所があった関係と、もともと羊肉を食べる習慣が地元にあったので、羊肉は主に北海道へ送られていました。

この当時、畜肉の中では羊肉が最も安かったのです。そして、かの有名なサッポロビール園が時を同じくしてオープン(昭和41年)。生ビール飲み放題・ジンギスカン食べ放題で1000円。まだまだ食肉の価値が高かったこの時期に、この価格は衝撃的だったでしょう。そして、この時期は空前の北海道観光ブーム。多くの日本人が北海道でジンギスカンを食べ「北海道名物にジンギスカンがある」と認知が広まり、羊肉を食べなかった日本人の間に、ジンギスカンという羊料理の名前が広く広がったのです。ちなみにこれはブームといっていますが、認知の拡大ですので終焉などはありません。あくまで、ブームという俗っぽい分類で分けているだけです。

輸入自由化で国産の羊飼育は大打撃を受けましたが、羊肉を使う料理の知名度は上がる。世の中ままならないなあと。

第三次ブーム「企業主導ジンギスカンブーム」(2004年~2007年頃)


大体2004年ぐらいからスタートしました。BSE(狂牛病)問題でBSE発生国の牛肉の輸入が止まり、全国の焼肉店が大パニックになりました。七輪やコンロ、焼き台はあるのに提供していた牛肉が手に入らない!そこで注目されたのが焼肉とオペレーションが同じジンギスカンです。

そこで全国の焼肉店が一気にジンギスカン店に看板を変え、またその流れにあやかろうと多くの企業がジンギスカン店をオープンさせました。この時の羊肉は、牛肉の代替肉として人身御供よろしく、期せずしていきなり注目されました。つまり外食業界が意図的に世間に羊肉を注目させた企業主導のブームです。この頃は羊肉といってもあまりイメージがつきにくかったので、羊肉ではなく「ジンギスカンブーム」として広がっていきました。

毎日メディアでジンギスカンが取り上げられ、店舗数も激増しました。しかし、牛肉の輸入が再開し羊肉をPRする理由がなくなった途端、一気に熱も冷め激増したジンギスカンのお店も軒並みクローズしていきました。ですので、ブームの終焉を2007年のUSビーフの輸入再開の年としました。

このブームは流行っているからと適当な羊肉料理を出し、羊嫌いを量産してしまった側面もありますが、ブーム前と比べてジンギスカン店が終了後も一定数を維持し、マイナーな料理だったジンギスカンを聞いたことがあるものにした功績は大きいと思います。このときオープンし未だに営業している名店も結構あります。また、このとき話題となった「Lカルニチンで太らない!」的な切り口も古くて煙もくもくというおじさんの食べ物だったジンギスカンを女性まで広めた機会でした。

第四次ブーム「消費者の需要増がベースに来る底上げ型ブーム」(現在進行形)


これは2021年まで続いている流れで、非常に面白いと思うブームです。だいたい2014年の未年からスタートし2020年の頭にかけて大きく発展しましたが、新型コロナウイルス感染症予防の活動自粛により足踏み・・・と思いきや、店舗数がコロナに負けず増えているという現状です。

基本ラム肉業界では積極的にメディア戦略を打っている大手企業はありません。今回「第3次(このコラムですと第四次)」と呼ばれているブームは「企業→広告代理店→メディア→消費者」の流れが成立していません。お店やイベントのPRなどはたまにあるようですが、全体として予算を投下しているところは知る限り無いので、自然に消費者の中から発生したブームであるといえます。

つまり、本当に、消費者たちの中から沸き上がった流れなのです。

ポイントを上げると、

  • 企業主導ではなく、消費者が羊肉に慣れて羊肉を食べるようになったことからはじまった。(ジビエ、熟成肉、赤肉ブームなどで日本人の食肉の選択肢が広がったともいえる)
  • スーパーでの取り扱いの増加。
  • グローバル化による様々な国の料理が食べられるようになった。
  • 臭い硬い安いというイメージを持たない層の成人化。
  • チルドラムの普及。
  • 輸入国の増加。
  • 羊の扱いに慣れたシェフの増加。

詳しく説明すると……

消費者が羊肉を食べる機会が増える(上記のポイント参照)→お店側がそれに反応し羊を扱う店がジワリと増える→それに注目しメディアなどが取り上げるようになる→それを見て企業などが反応しだす→消費者ももちろん反応しだす→スーパーなども注目し取り扱いが増える(2015年にある流通グループが羊の売り場を2倍に増やすとリリースを出してから量販業界は加速)→消費者が目にする機会が益々増える→輸入解禁になった各国がこの流れを見て日本へ羊肉をさらに売り込み始める→メディアがそれを取り上げる→それを見て消費者やお店が益々興味を持つ……

という流れが同時多発的に起き、一言で「これが原因」とはいいにくい、PRしたから広まった的なことではない、質実剛健なブームとなっています。認知が上がりじわりと広まった一連の流れを、わかりやすく「ブーム」とつけているだけだともいえます。

今までの長い間、業界の各場所で羊愛(本当に、羊業界は愛が深い人が多い)を語る人たちの努力がここに来て一気に花開いた形です。それは羊肉の消費量のグラフを見ていただいても明らかです。

輸入総重量:輸入食品監視統計(厚生労働省)

また実感としても5年ぐらい前までは「羊の普及活動をやっている」と話すと、珍妙な事をやっているな……と思われていましたが、現在は「美味しいお店はどこですか?」と聞かれることが多くなっています。これを見ても隔世の感があります。

ちなみに、輸入国の増加は2017年にフランス産の解禁から始まり、アメリカ、ウエールズ、アルゼンチンと輸入国が増加しました。それは、日本では羊肉は海外から入れるものという前提があり(関税ゼロ%なのです)、農業協定などの国際交渉の際に気軽に輸入を認めるからです。その背景には、日本国内での羊農家の数も少なく、輸入解禁になっても問題にならないというのもあるのかと感じています。

素材がブームになる新しいパターンのブームでもある


このブームの面白いところは、味や料理ではなく「素材」がブームになっている所です。第二次のブームが「ジンギスカン」という料理に絞られていたのとはかなり違います。なので、第二次は「ジンギスカン」という料理のブームです。そうすると、無理にまとめていますが第一次は「ジンギスカンの認知拡大」、第二次は「ジンギスカンブーム」なので、1次と2次と3次には関連性がない……とも言えなくはないのです。

閑話休題。普通ブームとは料理や味が一般的でわかりやすいのです。タピオカなどは非常にわかりやすかったと思います。素材であり肉の種類単体のブームは今までなかったのではないでしょうか??

長くなりましたが、これが、今回のブームの特徴で消費者から自然発生的に広まったブームです。SNSの力などが大きく影響したことも見逃せません。

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